「精進料理」は、美味しいものへの飽くなき探求心から生まれた菜食だった。
ユネスコ無形文化遺産に登録され、今や世界的に有名になった「和食」。実は、和食が発展するのに非常に重要な役割を担っていたのが、「精進料理」なんです。
精進料理は、動物性食材を使わないため、ベジタリアン・ビーガンからも熱い視線を浴びている和食の一種です。いったいどんな経緯で発展し、どんな料理があるのでしょうか?
日本の伝統的ビーガン料理ともいえる、精進料理についてまとめてみました。
目次/Contents
精進料理って?
精進料理とは、中国仏教の「肉食忌避」の思想に基づいた、動物性食材を使わない料理のこと。時代や場所によっては、五葷(ネギ・ニラ・玉ねぎ・らっきょう・ニンニク)も避ける場合があります。
日本の精進料理は、中国で仏教(禅宗)を学んだ僧により日本に持ち込まれ、鎌倉時代に広まったと言われています。
つまり、精進料理の立役者は、僧=お坊さん。お坊さんが創意工夫し、植物性食材だけで作った料理が、精進料理というわけです。
精進料理で最も多く使われていた食材は、大豆。豆類を食べることで、本来動物性食材で摂取するタンパク質を補っていたのでしょう。これは今のビーガン・ベジタリアン料理と同じですね。
今でも、精進料理のお店では、大豆の加工食品である豆腐・湯葉・味噌などが多く使われています。また、お寺が多い京都で湯豆腐・湯葉料理が有名なのは、精進料理の名残りと言えるでしょう。
「ビーガン・ベジタリアン料理」と言われると、海外から入ってきたもの、最近になって注目されている食のポリシーと思いがち。しかし、日本では古く鎌倉時代から、ビーガン・ベジタリアン料理が食べられていたのです。
精進料理に欠かせない「もどき料理」
精進料理の大きな特徴が、植物性食材を動物性食材のように見せた「もどき料理」です。
仏教の戒律により動物性食材を食べられない僧たちは、何とかお肉やお魚に近い見た目や味を再現しようと工夫を重ね、様々な料理を生み出しました。
例えば、豆腐と野菜から作られる「がんもどき」。今もおでんの具として有名ですが、もとは精進料理から生まれた料理です。
がんもどきの「がん」は鳥の「雁(がん)」、雁に似せた料理で「がんもどき」。名前の由来の一つに、こんな説があるんです。面白い!
他にも、当時の「庭訓往来(ていくんおうらい)」という書物には、精進料理として「猪羹」「鳥頭布」「鴨煎」などの動物の漢字が入った記述が。様々なもどき料理があったことを思わせます。
歴史に出てくる僧たちは、常に戒律を厳格に守り、ストイックに生きているイメージがあったライター。しかし、こうして見ると、美味しいものを食べたい欲求は私達と同じだったのかも、と少し親近感がわきませんか?
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「和食文化」発展の影に、精進料理あり!
鎌倉時代以前の日本料理は、味付けや調理の面でまだまだ発展途上。しかし、鎌倉~南北朝時代の僧たちの食事への探求心が、その後の日本料理の調理・味付け技術を高めていきます。
植物性食材だけの料理は、どうしても動物性食材の料理と比べ、味が淡泊になりがち。そこで僧たちは、味噌などの調味料や植物性の油を効果的に使い、動物性食材を使った料理に近い、以前よりも濃く複雑な味付けを考案します。
また、調理技術の向上も目を見張るものがありました。これは、お肉に近い見た目を実現するため。僧たちの飽くなき向上心と情熱により、この時代に多くの高度な調理技術が誕生したのです。
当初は僧の間だけで発展していった精進料理の味付けや調理技術は、次第に一般人の間にも広まっていき、それ以降の日本料理の文化発展にも、大きな影響を与えました。
ちなみに、江戸時代に庶民の間で流行した料理に、ある食材を別の食材に見立てて調理する「見立て料理」というものがありますが、これも精進料理の「もどき料理」にルーツがあると言えるでしょう。
中国風精進料理「普茶料理」
※写真は「普茶料理 梵」の普茶料理。
江戸時代、新たに中国から伝わった精進料理として、「普茶料理(ふちゃりょうり)」というものがあります。
普茶料理は、ごま油を多く使い、揚げ物・炒め物が多いのが特徴。油に加え、葛(くず)を使うことでとろみをつけ、今までの精進料理と比べ、食べごたえがある料理です。
また、食事は大皿に盛られ、みんなで1つの食卓を囲み、取り分けて食べる形式。
それまでの日本の食事は、各々に御膳がある「銘々膳(めいめいぜん)」が主流。現在につながる新たな食事の形式も伝えたのが、普茶料理なのです。
昔も今も、美味しいものを食べたい気持ちが料理を美味しくする。
いかがでしたか?
昔の人、特に厳しい生活を送っていた僧にもあった、食べることへの欲求。いつの時代も、どんな生活をしていても、食べることを楽しみたい。日本人は昔から、食べることを楽しんでいたんですね。
それぞれの時代の人々が、「美味しいものを食べたい」と創意工夫したからこそ確立された、和食という文化。そんなことを考えながら和食をいただけば、その味もさらに深いものに感じるかもしれません。
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