南魚沼のお米に魅せられ、雑誌編集長が始めた宿運営。『里山十帖』誕生秘話!【岩佐十良さんインタビュー】
更新日:2019/02/02 公開日:2018/02/26
昨年暮れ、前後編に分け新潟県南魚沼市大沢山にある宿「里山十帖」のご紹介をさせていただきました。その宿のオーナーが、株式会社自遊人代表取締役・クリエイティブディレクターの岩佐十良(いわさ とおる)さんです。
Vegewelのコンセプトでもある「食のバリアフリー」を里山十帖で実践し、成功に導き、移り住んだ南魚沼だけにとどまらず、新潟の地域活性のために活動している岩佐さん。
日本の食文化に対するたくさんのメッセージが込められた、数々のプロジェクトへの熱い情熱を、インタビューで伺いました!
岩佐十良(いわさ とおる)
生粋の東京子。武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科4年在学中に、自遊人の起点である会社を創業し同時に代表取締役に就任。
2000年に雑誌「自遊人」創刊。編集長に就任。その後「オーガニック.エクスプレス」(食品、物販部門)を開設。
2004年米作りをスタートさせ、編集オフィスを南魚沼に移動し、この地域を中心に食に関する数々の事業に着手。雪国観光圏の雪国A級グルメなどのプロジェクトをプロデュース。
現在、他の地方の宿再生コンサルティングも同時に進行中。今や引っ張りだこの岩佐さんです。
岩佐さんのお米と農業への熱い想いは、今回 Vegewelで記事にさせて頂いた「里山十帖」の運営にも繋がっています。
里山十帖は、2012年5月に南魚沼市大沢山温泉の旅館を引き継ぎ、フルリノベーションに着手。2014年にオープンの運びとなります。
その事業の業績は、数々のメディア(テレビ・雑誌)で取り上げられました。
美術大学にいかれていた岩佐さんの中心には、凛とした美意識が。全ての事をクリエイティブに追求する姿勢が、成功と言うものを引き寄せているように感じます。
目次/Contents
なぜ南魚沼に惹かれ移住したのか?雑誌社としては異例、宿の経営をするに至った訳は。
雪の中に佇む里山十帖。
北海道出張の帰りというハードスケジュールの中、お疲れの様子を微塵も見せず熱い思いを語ってくださった岩佐さん。
里山十帖の一番のテーマは「食」です。しかもメイン料理はお米と野菜!
Vegewel初 お宿のご紹介! おばあちゃんに教えてもらったような、懐かしい雪国の料理を上品に美しくクリエイト。それが今注目の宿「里山十帖」の料理。【里山十帖】
インタビューは、里山十帖で野菜中心の食事を提供するに至った経緯を伺うところからスタートしました。
岩佐さんご自身が元々ベジタリアンなのでしょうか?
「いやいや、東京で編集の仕事をしていた頃の食生活は蕎麦・寿司・天ぷらのヘビロテ!ベジタリアンでもなく、ヘルシー志向とは縁の無い生活でしたよ。
私は出身も東京である為、故郷があるというわけでもない。地元産のものも無く、考えてみると東京って美味しい料理はあっても、素材の特産品はあるようで無い」。
雑誌「自遊人」で、旅・宿・温泉・食を取材して行く中で、最終的に食が一番重要と思うようになった岩佐さん。そして、その食の中心は「米」と考え、美味しいお米を求め、日本中のお米を知り尽くしていく事に。
その岩佐さんの想いは、「納得できる米を自分で作りたい!」という気持ちに変化していきます。
岩佐さんは、お米作りをするにあたり、腑に落ちないこと、確かめたいことを、自分の目で見るために南魚沼に通い、この地に惚れ込むことになりました。
「多くのお米を調べた結果、美味しいお米ができる条件が全て揃っているのが日本では数カ所しか無く、その中でも南魚沼のお米が一番美味しい!という結論にたどり着いたんです。」と岩佐さん。
なんとこの地に会社ごと移り住むことを決意します。
八海山を望む収穫間近の田園。
岩佐さんの行動力、共に移住を決めた「自遊人」のスタッフの心意気を、羨ましくも思う方は多いのではないでしょうか。
お米作りへの強い想いが岩佐さんを動かしたのです。
会社を移転した時から徐々に、岩佐さんはベジタリアンの生活になっていきます。周りには美味しい野菜が多く、魚肉を取る必要もないと言う自然の流れからで、特に意識してというわけでは無かったそうです。
そして、岩佐さんの体に変化が!
とても体が軽くなり、疲れにくく、動きやすくなったことを実感されたそうです。
「遠い昔は米を中心に野菜や大豆をタンパク源とし、味噌・醤油の発酵食を取り、雪国ゆえに冬季のタンパク源として猪や鹿などのジビエと言われる動物性食材を少量取れば、食のバランスがとれていたんですよね。」
日本人はもともと植物性の食材が中心。本当に美味しく、質の良い地域の食材で理にかなった食生活をしていたわけですね。
里山十帖の食事は写真のように野菜が中心。(冬には保存食や発酵が中心に。写真下)
体の変化から、添加物の不自然性を実感し、自分が食べたい物へのこだわりを持ち始めた岩佐さん。
外食で中々自分の求めている物と出会えず、だったら作っちゃえ!という気持ちが、オーガニックエクスプレス(オーガニック食材の通信販売)・A級グルメ(岩佐さんが提唱し、南魚沼市を中心にする雪国観光圏から全国に広がっている「永久に守りたい味」の食文化)・里山十帖経営の原動力になったわけです。
里山十帖リノベーションの話が持ち上がったのは、新潟に移り住んで9年ほどした頃のことでした。
圧巻の梁を残しリノベーションした宿のロビー。
里山十帖の全景。
「里山十帖を始めてからは、動物性食材を食べるようになりました。
宿のリノベーションコンサルタントの仕事等で地方に行った時は、取材としていただく状況も出てきたので。」
岩佐さんがSNSで発信される料理はクオリティーの高いものが多く、贅沢と解釈するのではなく、盛り付け・色合い・美味しさを画像から感じ取ることができ、とても勉強になると思うのです。
やはり美学を感じます。
何時間あっても語り尽くせないお米と農業の話。
さぁ、ここからは岩佐さんの詳しいお米の話になります。
岩佐さんが惚れ込んだのは、南魚沼産のコシヒカリ。なぜこんなに美味しいのかと言う話になると、もう話が止まりません(笑)。
一言で米と言っても語り尽くせない程、お米に対する愛着と知識がある岩佐さん。
南魚沼のコシヒカリが美味しいというのは、国内外でも有名ですが、なぜ美味しいのか知りたいですよね。
まるで地質学の講義ができるんじゃないの!というくらい、話は地層・標高・水質の話にまで及びます。
この南魚沼のお米が美味しい理由とは?
「理由としてはやはり地形。標高がとても大切で、昼夜の寒暖の差が無いと甘く美味しくならないんです。
お米は、土のミネラルで微妙に味が変わるんです。南魚沼、特にこの地域は断層地帯。さまざまな土の層が、少しずつ田んぼに入ってきます。
そのようなたくさんのミネラルを含んだ土が、俗に言うトロトロ層を作るんです。
そして水。この辺りは、春に雪解け水がじっくりと地中に浸透していきます。その時にやはり地中の微量ミネラルを含むんです。
八海山や鶴齢などの有名な酒造があることからもわかるとおり、この辺の水はやわらかく上質。さらに昼夜の寒暖差が、もっちりとした冷めても美味しいお米を作るわけです」。
「標高・寒暖差・土・水が、上質で美味しいお米になる条件。それを兼ね備えているのが、日本海側にある新潟であり、とくにこの南魚沼なんです」。
そして話は農業とビジネスの話に及びます。
「南魚沼は美味しいお米が育つ土壌でありながら、米作りとしての農業は決して楽ではありません。農業を継続させるには、お金が稼げるシステム作りも大切なんです。
農業に付加価値を付けることも重要ですが、農地の集約を促進することも重要です。国の制度改革も含めて、官民が一帯となって農業の未来を考えれば、必ず農業で食べていける」。
今のように田畑の所有者が細分化されている構造では、なかなか採算が取れない。無農薬のお米を育てようと思ったら、それはさらに重要な課題になるそうです。
行政をも動かすことができそうな岩佐さんの情熱!改革は遠い未来では無いような気がします。
写真は子供たちと稲刈イベントを行った時のもの。この体験をした子供達に、将来日本の農業を担う人材になって欲しいものです。
宿をやる上で大切にしている、食に対する3つの優先順位!
「近年の『旅』のトレンドは、美味しいものを食べたいというところに変わってきているんです。以前は風光明媚な場所や温泉だったわけですが、旅の目的の一番が『食』になってきている」
あそこのアレを食べに行こう!この時期はこれが美味い!旅の途中の移動の中でもおいしいものが食べられたらいい!
流行りのSNSも、絶景か、美味しい食の写真が「いいね!」になるご時世。
里山十帖の盛り付けの一例。
「里山十帖でも食が一番の自慢。その食の中で、大切にしていかなきゃいけないことの優先順位があるわけです。
僕が大事にしているのは3つ。宿のスタッフにも常に言っているのですが、
① 人の尊厳に関わる食のポリシー。(宗教、ビーガン、ベジタリアンはここに属します)
② アレルギーなどの、食材の制限。
③ 個人の好み、好き嫌いなど。
里山十帖の食は、この順番で優先順位をつけさせて頂いているんです。
1番目は人の尊厳に関わることなので、1番に守らなければならないこと。
2番目のアレルギーに関しては、勿論ご要望は承れますが、下手をすれば生死に関わることなので、お客様にも注意していただかなければならないことです。
3番目に関しては個人の嗜好。好き嫌いが一番の例です。里山十帖ではこれについては全てを聞き入れることができないと考えています。
今の日本の旅館はこれと逆で、お客様中心主義になってしまっています。アレルギーや、宗教上などの食のポリシーは、どちらかと言えば面倒くさい事として扱われてしまっているのが現状かもしれませんね」。
確かに日本のサービスは、お客様の嗜好をそのまま受ける事が「おもてなし」と思っているところがありますね。里山十帖の「食」は、また違う「おもてなし」の形と言えるでしょう。
もう一つ、里山十帖の食で注目すべき点は、料理の盛り付けと器との調和の美しさです。日々料理を探求なさっている岩佐さんは、宿のフードクリエイターでもあります。
「盛り付けや見た目の美しさはとても大切。美しくなきゃ嫌なんです!」。
いろいろなアイディアソースをお持ちの岩佐さん。宿で出される四角い木の器「八寸」は、茶事の懐石で使われるもの。
宿の周りの植物が器になることも。器が料理を引き立てる事を知り尽くしていらっしゃるクリエイターのなせる技。
100年以上も前の古伊万里の器に盛り付けられた滋味なお料理が登場することも!美しく、心安らぐ気持ちになりますね。
里山十帖のお食事を見て、地元新潟の地で育った食材を使い、美しく美味しく見せることがローカルガストロノミーなのだと実感しました。
今はこのような豪雪の中、スタッフは宿を盛り上げています。
里山十帖の運営、自遊人のプロデュース以外に、岩佐さんの思いが伝わるプロジェクトがあります。
2010年、新潟県、群馬県、長野県の県境地域の7市町村(魚沼市、南魚沼市、湯沢町、十日町市、津南町、みなかみ町、栄村)から雪国の伝統食材を生かし、本当の食を味わってもらう「雪国A級グルメ」が誕生しました。
「これらは、日本初の食材情報を公開したプロジェクトで、地域の未来を考えている方たちが個々の力を合わせ、市民運動のようなムーブメントとして大きな力にし、作り上げてきたプロジェクトでもあります。
A級グルメも8年目になりますが、行政も応援してくれるようになってきました。
これが全国に広がれば、食・農業・観光のつながりがさらに強いものになるのではないだろうかと考えています」
食・農業・観光のつながりを実践した市民参加プロジェクトの一つが「魚沼キッチン」。
雪国観光圏だけでなく地元の有力企業である八海醸造の協力もあって、昨年6回開催されました。
著名なお料理の先生を招き、地元食材を使った料理を教えてもらいながら、SNSを使い県外に配信する画期的な企画。地元住人が中心となり地域活性化を目指すプロジェクトです。
魚沼キッチンは、八海醸造の協力のもと、「魚沼の里」にある「ブランドゥブラン(菓子工房)」の2階のキッチンスペースで行われました。
お料理は参加者が自分で盛り付け、写真に収めた後SNSで発信。岩佐編集長直々に撮影のコツを教えていただけるのも、このイベントならではの特典!
マクロビオティックの会の様子。玄米や糸瓜などの食材を使い、思い思いに盛り付け写真に収めたら、SNSで発信して、「いただきます」。
最終回は自遊人でもお料理の連載ページを持っている松田美智子(まつだみちこ)先生。
様々な活動を地域でしている岩佐さん。2019年10月から12月には、新潟県と山形県庄内地方のディスティネーション・キャンペーンがあり、その総合プロデューサーに就任なさいました。
なかなか無いチャンスのプロジェクトに岩佐さんの意気込みも相当なようです。
2011年の観光通信を保存してあったのですが、この頃から新潟の魅力をアピールされていたのかと思うと、今回の抜擢もうなずけます。
また、今年は、里山十帖&自遊人でプランニング・ディレクションしている宿が、箱根と大津にオープンします。
箱根は保養所をリノベーション。大津は東海道五十三次の最後の宿場町。どのような宿になるのでしょう。
次々とプロジェクトをクリエイトする岩佐さん。Facebookにクリエイターであるご自身の気持ちを綴った言葉が載っていてとても印象的でした。
「クリエイターである私が、クリエイティブと言う観点から地域を変えることができれば人生最高のクリエイティブワーク!」
有言実行されてますよね!
今の里山十帖はこんな銀世界になっています。
岩佐さんの趣味はスノーボード。願ったりのスノボ環境で、今日もひと滑りしてから仕事に向かう編集長が想像できます。
今後も何をクリエイトするのか、目の離せない岩佐さんです。
岩佐さんfacebook
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Vegewelでレストラン検索
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