お寺の住職が提供する非日常 〜「サチのお寺ごはん」を監修する話題の料理僧 青江覚峰氏〜
更新日:2019/02/01 公開日:2017/10/11
「暗闇ごはん」という言葉を聞いたことありますか?
文字通り、暗闇の中でごはんをいただくイベントです。
想像しただけでドキドキしますね。
今回はこのイベントを主催する緑泉寺の住職、青江覚峰(あおえ かくほう)氏に、暗闇ごはんや精進料理を通して伝えたいことを伺いました。
青江覚峰氏プロフィール
1977年東京生まれ。浄土真宗東本願寺派・湯島山緑泉寺住職。米国カリフォルニア州立大学にてMBA取得。料理僧として料理・食育に取り組む。ブラインドレストラン「暗闇ごはん」代表。超宗派の僧侶によるウェブサイト「彼岸寺」創設メンバー。著書に「お寺ごはん」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、「ほとけごはん」(中央新書ラクレ)、「お寺のおいしい精進ごはん」(宝島社)など。その他、人気コミック「サチのお寺ごはん」の監修、クッキングスクールでの講師など活動は多岐にわたる。
20代の頃にアメリカで経営学を学んで MBAを取得し、ビジネスを始めていたという青江覚峰氏。
当時は実家であるお寺の後継を全く考えていなかったということですが、 9.11(同時多発テロ)がきっかけで、改めて仏教を学びたくなり帰国したということです。
その後、料理僧としての活動を続けておられるのですが、それにしてもなぜ「暗闇ごはん」なのでしょうか?
見えなくなると、見えてくるものがある
青江氏「普通の人は食べているとき何を考えているのでしょうね。朝ごはんを食べながら、電車の時間やその日の仕事のスケジュールなどを、次から次へとせわしなく考えているのではないでしょうか。
何も考えずに、食べることのみに集中することがない。だからそういう経験があってもいいのではないかと思って。
暗闇で食事をすると『これはなんだろう?』って、いま口にしているものにすごく集中することになります。
今の時代は、SNSやメディアからの情報があふれて、何事に対しても先入観を抱きやすい。でも視覚がなくなると、自分の残された感覚を研ぎ澄ますしかなくなる。
そうやって食に真剣に向き合う経験をして欲しいと思って始めたのです」
人間は目から入る情報に8割以上頼っていて、とかく見た目に惑わされやすいもの。多くの人が先入観から逃れられず、意外と自由なものの見方ができなくなっている、とも青江氏は言います。
自分の先入観に気づく
青江氏「例えば、透明なトマトスープというものがあります。トマトをミキサーにかけて何度もこして寝かせると、透明な液体が出来上がりますが、味は完全にトマトそのもの。
暗闇ごはんでこれをお客様に召し上がっていただくと、目隠しをしても皆さんすぐにトマトスープだとわかってくれます。
しかし目隠しをせずにこれを出すと、かなりの割合でわからない人が出てくる。
『トマトは赤い』という先入観があるので、透明な液体を見ると混乱してしまうんですね」
先入観ゆえにものを正しく見られなくなる。それは食に限ったことではなく、ものや人に対してもそういうことがありますよね。
人間は完全に先入観をなくすことはできませんが、自分も含めて人にはそういう傾向があると自覚するだけでも、ものの見方が変わるかもしれません。
「暗闇ごはん」はそういう気づきを与えてくれるのですね。
料理を生かす「心構え」
青江氏は不定期ながらクッキングスクールでの講師もしています。
浅草の歴史あるお寺の住職ですから、通常のお勤めだけでもお忙しいと思いますが、なぜ精進料理を教える活動をしているのでしょうか。
青江氏「料理を教えたいというより、それを通して仏教の教えを伝えたいと考えています。料理を作るときはどんな素材でも大切に扱います。値段の高い、安いは関係ありません。
例えば、松茸でも椎茸でも命は同じです。何であれ命あるものは全て大切にするという教えを伝えられるのです」
精進料理とは、一般に「仏道修行に励む僧侶が食べている料理」と理解され、具体的には肉、魚介、卵、五葷(にら、にんにく、らっきょう、玉ねぎ、長ネギなど)を使わない料理です。
原則ベジタリアン料理ではありますが、違うのは「食べる行為自体が仏道修行となる料理」という点です。ただ野菜を食べていればいいということではなく、修行として食にまつわる行為を一つずつ丁寧に行うことが大切なのです。
青江氏「特に料理するときには『三心』という心構えが必要とされています。
1、大心 山のように揺るがない大きな心。小さなことに動揺しない心や寛大な心です。
2、老心 親が子を思うように食材を大切にする心。
例えばお米を洗うとき、米粒が3粒くらい流れていってもあまり気にしない人はいるかもしれません。でも、もし自分の子供が100人いたとして、そのうち3人が川に流されたとしたらどうでしょうか。目の前の素材を慈しむ心が、人を思いやる心に繋がるのです。
3、喜心 喜びや感謝の心。
食事の時は一期一会であって、同じ場所で・同じものを・同じ人と食べるとしても全く同じ状況ということはありません。同じ食卓を囲む今日という日、二度とないこの時に感謝して料理するということです。
これらが全て揃って精進料理なのです」
食べるとは命をいただくこと
青江氏は子供達にも食育の活動をしています。
例えば、目をつぶってパンを食べてもらい「このパンがどこから来たのか想像してください」「今までごはんを食べてきてこんなに大きくなりました。何を食べてきたのかな?」などの質問を投げかけます。
この食育のゴールは何でしょうか?
青江氏「ゴールは無いです。ただ、植物も含めて他の命を犠牲にして自分は生きている、ということを知って欲しいのです。
人間は食べないと死ぬ。でも、食べてもいつかは死ぬ。矛盾がありますよね。
そういう矛盾を孕んで考え続けることが大切だと思うので、ゴールはありません。
仏教には『問いはあるが答えはない』と私は考えています」
仏教では常に問いを提示すること、答えを探し続けることが大切なのだそうです。
そして、自分なりに出した答えはどんな答えも間違いじゃない、ということです。
青江氏が監修している人気コミック「サチのお寺ごはん」では、主人公が食材に真剣に向き合い、丁寧に料理しているうちに心が整う様子が生き生きと描かれています。作中の料理はどれもおいしそうで、レシピも詳しく載っています。
暗闇ごはんは緑泉寺から始まり、現在は様々な場所で開催されています。また、英語の会もあります。
直接ご指導いただける料理教室もありますのでぜひ青江氏のホームページを訪れてみてください。
緑泉寺 青江覚峰氏 HP
http://www.ryokusenji.net/index.html
青江覚峰さん、ありがとうございました。
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