アーユルヴェーダを日常に。〜心身を幸福に導くインドの伝統的な生命科学を知る〜
更新日:2019/02/02 公開日:2018/05/30
≪アーユルヴェーダとは≫
アーユルヴェーダ(ayurveda)という言葉は、「アーユ」は生命、「ヴェーダ」は知識または科学という2つの語から成り立つことで「生命科学」と訳されています。
長い歴史の中で人々の知恵によって発展してきた伝統医学の中の一つであり、世界三代医学として知られている「ユナニ医学」、「中国医学」に並ぶものです。
その三代医学の中でも、アーユルヴェーダは「世界最古の医療」として知られていますが、医療だけに留まらず、「何をどう食べ、どんな暮らしをしながら病を予防するのか。」という、より人生を生きやすくする為の様々な知恵が詰まっています。
目次/Contents
アーユルヴェーダの歴史
アーユルヴェーダは約5000年前にインドで発祥したと言われていますが、その起源が正確なものなのかはわかりません。
インドの医学書、チャラカサンヒターでは、”およそ人類の存在するところでは、健康と長寿に対する本能的な願望があるから、広い意味での医学は人間の存在と共に起こったと言えるだろう”と書かれています。
つまり、古代インド人の健康と長寿への関心が、アーユルヴェーダという一つの体系としてまとめられ、伝達可能な知識となったことがはじまりとなり、現代まで受け継がれていると言えるでしょう。
1人ひとりの個性をとらえる医学
人間には一人として全く同じ性質を持つものはなく、必ず個人差があります。
私は2人の男児を育てていますが、同じ時間に同じものを同じように食べさせても消化吸収で個性があらわれるため、排泄の時間や形態は変わってきます。
たとえ育った環境が同じ家族だとしても、1人ひとりの体の機能は異なってくるのです。
アーユルヴェーダはそれぞれの個性を見極め、常に「今の自分」の状態を教科書として、適切なケアをしていくことを大切にしています。
人間も自然の一部である
この世にあるものすべては物質的エネルギーであり、「空」「風」「火」「水」「地」という5大元素(パンチャ・マハブータ)から成り立っていると、アーユルヴェーダでは考えています。
5つの元素の成り立ちは、ビックバンという大爆発現象によるものだと言われています。
ビックバンによって「宇宙」=「空」が生じて、爆破による衝撃が波動となって伝わり「風」が生まれました。
更に、「風」による動きが摩擦し、熱が生じて「火」が生まれ、そこに重性が加わり「水」に、暗性が加わり「地」が生まれました。
この5大元素は私たちの体にも影響を与えています。
五大元素との関係性
私達は5つの感覚器官(聴覚・触覚・視覚・味覚・嗅覚)を持っており、これらは5大元素の性質にも深い結びつきがあります。
- 空(聴覚)軽い、柔らかい、クリア、無限、活動的、拡大
- 風(触覚)軽い、粗い、クリア、ドライ、冷たい、粗い、行動
- 火(視覚)軽い、粗い、シャープ、ドライ、熱い、繊細
- 水(味覚)重い、柔らかい、ぬるぬる、オイリー、鈍い
- 地(嗅覚)重い、固い、鈍い、濃い、鈍い
このように5大元素は、人間が生きていくために必要なエネルギーを与えています。
身体を動かすエネルギー「ドーシャ」とは?
この世の全ての生命体を形成している5大元素(パンチャ・マハブータ)の組み合わせにより、体内に3つの基本エネルギーが作られます。
この生体エネルギーを、アーユルヴェーダでは生体を維持するための基盤と解釈し、「ドーシャ」と呼びます。
「ドーシャ」とは「不純物」「増えやすいもの」「体液」「病素」などを意味していて、3つの性質「ヴァータ」「ピッタ」「カファ」に分けられます。
【各ドーシャの主要素】
「ヴァータ」「ピッタ」「カファ」のそれぞれの性質と作用は以下。
■ヴァータ=動くエネルギー
元素:空、風
役割:体内での液体、空気、食物の運搬、動きを管理する
感覚器官:聴覚、触覚
心理状態:恐怖心、緊張、不安、短気
性質:粗い、乾燥、軽い、動きやすい、冷たい、微細
■ピッタ=消化のエネルギー
元素:火
役割:消化、代謝、酵素などの転換プロセスを管理する
感覚器官:視覚
心理状態:怒り、嫉妬、勇気、意志
性質:熱い、鋭い、すっぱい、激しい、油っぽい
■カファ=結ぶエネルギー
元素:地、水
役割:湿り気、結合、固体性を管理する
感覚器官:味覚、嗅覚
心理状態:愛情、忍耐、寛容、食欲、愛着、所有欲
性質:重い、堅い、安定、遅い、厚い、粘り気、湿り気
各ドーシャのバランスは常に変化している
私達の身体には、どんな人にもこの3つの性質のドーシャが全て存在していて、その3つのバランスは、一人一人の個性によって様々です。その日その時の環境、季節から時間、年齢まで影響します。
そして、この3つ性質のアンバランス(ドーシャの乱れ)により、不調が引き起こされるのです。
ドーシャのアンバランスは、各ドーシャの増減によって起こります。
アーユルヴェーダでは、今の自分の心身のコンディションを観察することでその変化を自覚し、適切なケアをすることが、心身の心地よさを取り戻すきっかけになると考えられています。
アーユルヴェーダで自分の心身への理解を深める~現在の自分の状態をセルフチェック~
アーユルヴェーダでは現在の身体の状態の乱れを「ヴィクリティ」と呼んでいます。
さっそく今のヴィクリティをセルフチェックしてみましょう。
セルフチェックは、今のドーシャの乱れを整えるための一つのヒントになります。
ここ一週間程の自分の心身の状態を、以下のチェックリストに五段階(4・3・2・1・0)で点数をつけ、各ドーシャの合計点を出してみましょう。
【ヴァータのバランス度】
- 肌がかさつき乾燥している(4・3・2・1・0)
- くせ毛で乾燥していてふけが出ることがある(4・3・2・1・0)
- 眠りが浅く冷めやすい。寝不足気味である(4・3・2・1・0)
- 便が乾燥していて硬い(4・3・2・1・0)
- ガスが溜まっておならがよく出る(4・3・2・1・0)
- 便秘がち(4・3・2・1・0)
- 手足が冷たく寒がり(4・3・2・1・0)
- 頭痛、腹痛、筋肉痛などの痛みや痙攣が起こる(4・3・2・1・0)
- 行動的で落ち着きがない(4・3・2・1・0)
- 午後になると疲労感が強くなる(4・3・2・1・0)
【ピッタのアンバランス度】
- 多汗である(4・3・2・1・0)
- 肌があたたかく油気がある(4・3・2・1・0)
- 顔面や鼻が赤い(4・3・2・1・0)
- 目が赤く充血する(4・3・2・1・0)
- イライラして食事量が増えている(4・3・2・1・0)
- 過剰に冷たい飲み物や食べ物を欲する(4・3・2・1・0)
- 口内炎ができている。あるいは口臭がくさい(4・3・2・1・0)
- すぐに口が渇く(4・3・2・1・0)
- 胸焼けがする(4・3・2・1・0)
- 下痢が多い(4・3・2・1・0)
【カファのアンバランス度】
- 体が重く、やる気がでない(4・3・2・1・0)
- 湿気が多くて冷たい気候になると体調が悪い(4・3・2・1・0)
- 手足がだるく、関節の痛みがある(4・3・2・1・0)
- 口内が甘い、もしくは口中がねばねばする(4・3・2・1・0)
- 空腹感を感じにくい(4・3・2・1・0)
- 風邪気味で鼻水や鼻づまりがぬけない(4・3・2・1・0)
- たんが出て咳が多い(4・3・2・1・0)
- すぐに眠くなる(4・3・2・1・0)
- 少なくとも8時間はぐっすり眠ってしまう(4・3・2・1・0)
- みみずばれ様の発疹ができやすい(4・3・2・1・0)
各ドーシャの鎮静方法
セルフチェックの合計点数で1番多かったドーシャを、現在の体質・性質としましょう。
2つのドーシャ、3つのドーシャの合計点数がほぼ同じ場合もあります。特に4の数が多かった場合、そのドーシャが特に乱れて不調を引き起こしている場合があります。
最もアンバランス度の高いドーシャを調整しましょう。
各ドーシャの性質の表を参考に、ドーシャの乱れの緩和に繋げるための食べ物や食べ方・生活スタイルを見ていきましょう。
【ヴァータの合計点数が多かった方】
ヴァータが増加しバランスを崩すと、ガスが溜まり便秘を引き起こします。肩こりや腰痛・生理痛などの痛みが出やすくなります。心の面では不安や緊張しがちだったり、気分の変動が大きくなっているでしょう。
普段休む暇もなく働いていると、ヴァータが増加します。心身の休息をとると良いでしょう。
■生活スタイル
- あたたかい湯船にゆっくり浸かる
- セサミオイルで身体の末端からマッサージをする
- 時間の規則的生活サイクルを整える(起きる時間、寝る時間など)
■食べもの・食べ方
- 生姜やシナモンなど、身体を温めるものを積極的に摂取する
- 生野菜のまま食べずに、蒸したり火を通したりしてあたためてから食べる
- 便秘になりやすい為、消化に良い食事を心がける。
- 出来るだけ時間をかけながら、落ちついてゆっくりと、よく噛んで食べる
【ピッタの合計点数が多かった方】
ピッタが増加しバランスを崩すと、多汗になり 、発疹や蕁麻疹などの症状や消化不良を起こし、下痢が多くなることがあります。目の充血や口臭・体臭もきつくなることが特徴です。
心の面では、気が短くなり怒ることが増えたり、なにかと批判的になったりします。
暴飲暴食を控え、激しい感情が落ち着くような環境を作りましょう。
■生活スタイル
- 日中暑い中で過ごす場合(夏時期は特に)、木陰に入るなどしてこまめに休息をとる
- 戦闘的になりがちなので、そういった場所を避け一度冷静になる
■食べもの、食べ方
- コーヒーやアルコールの量を減らし、クーリング効果のあるミント系、カモミールやラベンダーなどのハーブティーを摂取する
- スパイシーな刺激物を控え、ちょっと足りないくらいのマイルドなものに抑える
- 身体の熱を冷ます作用のある生野菜や果物を取る
【カファの合計点数が多かった方】
カファが増加しバランスを崩すと、眠気や倦怠感が増えます。また、アレルギー疾患に悩まされることがあるでしょう。特に花粉が増える時期は注意です。心の面では物事への執着とこだわりが強くなり、所有欲が強くなります。
思考や行動が重く鈍くなり、活動する意欲がなくなって堕落けてしまいます。
重くなってしまった心身を軽くしてあげるような状態を作ることが大切です。
■生活スタイル
- 運動量を増やし良く身体を動かす
- 食べてすぐ横にならない
- 軽いウォーキングや運動で良いので身体を動かし、交感神経を刺激する生活を心がける
■食べもの・食べ方
- 食事量を減らし、空腹が残る状態で食事をする
- 乳製品を控え、生姜やニンニク・ブラックペッパーを積極的に食事に取り入れる
- 渋みや苦味のあるものを取り入れる
- グルテンを含むものを控える
- 朝食は抜いてしまうか、もしくはお粥やお白湯、ティーなどの軽い食事にする
すべてはバランス
私達の心身は、あらゆる環境化の中で常に変化しています。
例えば、ここのところ落ち付きがなく寝不足状態が続いているのであれば、その不調は、まずヴァータが増加してしていることが要因となっていることが考えられます。
早寝早起きをし、規則的な時間にしっかり睡眠をとること。湯船につかり、心身をあたためて、暖かい飲み物やオイルなどをこまめに食事に取り入れる、ヴァータのバランスが安定し、心身は落ち着きを取り戻してくるでしょう。
ですが、この生活もやり過ぎてしまうと、オイルの取り過ぎ、あるいは睡眠の取り過ぎで、今度はカファが増加し、身体が重くなり、気怠くなかなか起き上がれない、という状態にもなりかねません。
ポイントは、各ドーシャの性質と今の自分の状態を照らし合わせながら、1つのドーシャに偏りすぎず、各ドーシャを増やしたり、減らしたり(鎮静)生活スタイルや食べ物・食べ方はバランス良く見極めながら取り入れていくことが大切です。
全てのドーシャのアンバランスがバランス良く調和された時、私達の心身は幸福感で満ち溢れ、穏やかさを取り戻すことが出来るでしょう。
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