知って食べればさらに美味しい!「乾しいたけ」でフルコース【アカデミックレストラン】

更新日:2019/02/15 公開日:2017/11/28

11/14開催された野菜ソムリエ協会主催のアカデミックレストラン。

『知らないで食べるから 知って食べるへ 』

テーマ食材は「乾しいたけ」です。

数年前にAWキッチンの渡邉明シェフによるこの乾しいたけのイベントに参加したことがあり、また新たな視点で乾しいたけの魅力に触れられるのでは、とワクワク取材させていただきました。

奥田シェフ×杉浦シェフ 夢の饗宴


乾しいたけの可能性と新境地を開花させるのは、奥田政行(おくだまさゆき)シェフ×杉浦仁志(すぎうらひとし)シェフ。

世界のベジタリアンコンテストである「The Vegetarian Chance」で2016年3位に輝いたアルケッチャーノの奥田政行シェフと、2017年ベスト8に入賞したパティナステラの杉浦仁志シェフの豪華競演です。
(追記:杉浦シェフはパティナステラから別の店舗に異動されました)

乾しいたけといえば、うま味や健康効果から、ベジタリアン・ヴィーガン・マクロビオティックの世界では切り離せない食材のベスト5に入るものです。日本でも精進だしとして昔から重宝されています。

今回のイベントのお料理はベジタリアン対応ではないのですが、乾しいたけに関する知識やお料理のコツがたくさん。

二大シェフのお料理の妙技と世界観、そして笑いもいっぱいなトークの様子とともにレポートします。

時代の流れとともに乾しいたけを知る!


イベントの冒頭では、日本椎茸農業協同組合連合会顧問であり、きのこアドバイザーの小川武廣先生より乾しいたけの歴史をお聞きしました。

生を乾して食べるという知恵は古代中国から生まれ、乾物の多くは中国で生まれたものだそうです。乾しいたけは文献では1237年頃から紹介されています。

日本では、かつては盆・正月・法事といった“ハレの日”に欠かせない食材だった乾ししいたけ。高級食材と珍重されていて、昭和40年頃までは松茸より乾しいたけの方が高価なものだったというから驚きです。

昭和50年代までは乾しいたけは常にお中元・お歳暮のベストテンに入っていたそう。

この時代、自然健康食品ブームの筆頭であった乾しいたけは爆発的人気がありました。

昭和60年代から食は欧米化し、お米の消費量を肉や卵の消費量が抜きはじめ、豊食から飽食の時代となるにつれ、乾しいたけの消費は減っていきました。

今、また改めて見直されはじめている乾物のおいしさ・効能を知り、食卓に取り戻していきたいですね。

干せば10倍おいしくなる。

日本できのこが登場したのは戦後です。生しいたけが昭和20年代、えのきだけが昭和30年頃、なめこが30年代後半、ぶなしめじ・舞茸が昭和40年代後半。そして、エリンギは一番新しく平成5年ごろからです。

乾すことで旨味が増すという知恵は中国で生まれましたが、日本の国産しいたけは安心で美味しくおすすめです。なぜ国産しいたけがいいのか?

中国産のきのこははおがくずや藁・コウリャンなどに砂糖を加えて人工的な菌床で栽培しているのだそう。しかし、日本の国産しいたけは自然に近い原木栽培です。

また、小川先生曰く、ここで”乾す”と書いているのは、天日干し椎茸は乾燥条件によって衛生面や、虫がわくなどの問題が出るため、安定した機械乾燥を推奨しているからとのこと。

乾すことで旨味が10倍になるという椎茸も、安心でおいしい国産を選びたいですね。

【乾しいたけの保健作用(薬効)】

  • ビタミンD:骨を丈夫にし、カルシウムと一緒に摂取すると大腸がんの予防やアンチエイジング効果がある。(昔学校や軍隊で積極的に乾しいたけが食べられていたのは、骨を強くするからだそう)
  • 食物繊維:腸内のコレステロール・発がん物質などの有害物質を吸着し便秘を予防する。
  • カリウム:ナトリウムの排泄を促して血圧を下げたり、腎臓の老廃物の排泄を促す。
  • レンチナン:しいたけの抗腫瘍性成分であるβグルカンの一種による抗ガン作用
  • エリタデニン:血中コレステロールを下げる。

乾しいたけを主役に!本日だけのスペシャルなお料理

さて、お待ちかねの奥田シェフと杉浦シェフの饗宴コースのはじまりです。

筆者はビーガンのため見学のみでしたので、目と耳で楽しませていただきました。


「干し椎茸のディクセルを挟んだ大山鶏のショーフロワ 干し椎茸のサブレと共に」 杉浦シェフ作

きのこの形のクッキーには粉砕した椎茸、椎茸と玉ねぎとフォアグラのテリーヌを凍らせて削ったものをかけています。ソースはポルト酒の香りを効かせています。


「干し椎茸と黒豚のディムサム 椎茸のコンソメスープ」 杉浦シェフ作

ディムサムとは点心のこと。もち米をまとわせた豚肉のミンチにしいたけの旨味を閉じ込めた一品。


「干し椎茸のチーズリゾット 干し椎茸のペリグーソースがけ」 奥田シェフ作

ペリグーソースとは、干し椎茸を油で煮てから生クリームを入れ、さらに煮つめたソース。


「乾燥椎茸の塩漬け豚  干し貝柱の真空スープ」

干し貝柱のコンソメ仕立てのスープは、鍋の蓋のかわりにラップで密閉し低温で煮出します。

その後塩漬け豚を入れて煮込み、そばつゆをすこしだけ足します。(そばつゆはコンソメに似ており食欲のわく味になるそう。)

冷やして上に浮いて凝固した油をとることで、澄んですっきりとした旨味だけが残ります。

※肉にはイノシン酸があり、肉+塩でグルタミン酸になるのだとか。


「乾燥椎茸とチョコレートの共演」

PATINASTELLAの刻印の入ったチョコレートの蓋の下には、椎茸の香りと味を閉じ込めたクリーム・ミルクチョコムース・ガナッシュの層の味わいが。

乾しいたけをより美味しく!プロの技を皆さんにもシェア


◇ 干し椎茸は、使う前にヒダのある方を上にして太陽に干してから食べる。ビタミンDが増強され、美味しくなる。(ビタミンDは一か月で消える)

◇ 干し椎茸は密閉容器に乾燥剤を入れて保管する

◇ 干し椎茸(昆布も)は65℃で戻すとベストなうま味が出る。うま味となる酵素は70℃を超えると死んでしまう。出汁をとる時は、まず昆布を65℃で煮だしてから昆布を取り出し、その後干し椎茸を入れて煮だす。順番に入れることで旨味が増す。

◇きのこは5つのタイプに分類される

  1. 香りタイプ
  2. ぬめりタイプ
  3. 食感タイプ
  4. 苦味タイプ
  5. うま味タイプ

奥田シェフ曰く、「今までは美味しいということにフォーカスしすぎていたシェフたちも、ようやく健康意識を持ち始めてきている。」と、、、。

消費者の健康志向に作り手となるシェフたちも動き始めているようです。

他にも、法隆寺の宮大工の西岡氏は柱に使う木を選ぶとき、山にいってその木の立つ東西南北を記憶し、その向きにあわせて柱を立てる。食材も同様に生き物として捉えて育ってきた環境にあわせて生かし調理する、というエピソードが紹介されました。

生き物として食材と向き合う、そんなすてきなお話ですね。

おいしさ、旨味(UMAMI)とは?


奥田シェフ、杉浦シェフのプロの感性と知識のお話はとても興味深いものでした。

フレンチ・和食・中華のそれぞれの出汁と旨味の作り出し方にも、歴史や食文化による個性があります。

出汁はフレンチは生から時間をかけて出し、和食は乾燥させて短時間で、そして中華は生の肉+金華ハムなどで出します。

旨味においては西洋の旨味はガツンと直球で入ってくるのに対し、和の旨味は受け入れるもの。味を探しに行って、口の中で味わいになる受け身の味わいなのだそうです。

沢山噛むことで自分の唾液と混ざり合い甘味が出て旨味となる。噛むその人の唾液でそれぞれ自分だけの旨味となる。よく噛むことは健康面だけでなくおいしさにも大きく違いが出るのですね。

また料理を作るときには、いろんな食感の食材が混ざり合うことで必然的によく噛むので美味しく感じるのだとか。

そして本当に美味しいもの、いいものは胃に入る前にすっと消えてなくなる感覚だそう。こうやって五感を研ぎ澄まして味わうと、食はもっと楽しく豊かになりそうです。

テーブルサーブされるたびに歓声の上がる美味しく芸術的なお料理を堪能する今回のイベント。

笑いも交えながら、惜しげもなくその知識を楽しく伝えてくださるお二人のシェフのホスピタリティ、そして息のあったコンビネーションに会場は始終和やかで笑顔があふれていました。

おいしくてヘルシーな乾しいたけ(=干ししいたけ)を改めてお料理に取り入れたら、きっと家庭の食卓がもっと豊かになるはずです。


【奥田政行シェフプロフィール】
アル・ケッチァーノ オーナーシェフ、野菜ソムリエアンバサダー
山形県鶴岡市生まれ。東京の有名店で修行後、鶴岡市にイタリア料理店「アル・ケッチァーノ」をオープン。平成16年より山形県庄内総合支庁「食の都庄内」親善大使となり、海外での活動にも高い評価を受ける。また、平成18年3月にイタリアのアルチェヴィアより表彰を受けスローフード協会イタリア本部主催の「テッラ・マードレ2006」では世界の料理人1000人(日本からは11人)に選出されている。2016年には世界のベジタリアン料理コンテスト「The Vegetarian Chance」で世界第三位に輝く。TBS系列「情熱大陸」(2006年)、NHK BS1「MISSION」(2010年)、テレビ東京「ソロモン流」(2011年)出演。他著書多数。

【杉浦仁志シェフの取材記事はこちら。】
世界のベジタリアン料理コンペで、TOP8に選ばれた日本人。杉浦仁志シェフインタビュー

”味を重ねる”世界のベジタリアン料理コンペTOP8の料理哲学に触れる時間。杉浦シェフに学ぶ料理教室【PATINASTELLA(パティナステラ)】

◇年明け1/11(木)、Vegewel特別企画イベント実施決定!

渋谷PATINASTELLAにて、杉浦仁志シェフによるスペシャルビーガン料理とビオワインのコースディナーを楽しめる「New Year Vegan & Bio Wine Party」を開催いたします。

2017年ミラノで開催されたベジタリアン料理の世界大会「THE VEGETARIAN CHANCE」で入賞した、あの美しい「mazzolino」もいただける貴重なディナー。

先着10名様限定のレアな企画です!早期の満席が予想されますので、お申込は是非お早めに。
イベントの詳細・お申込みはこちら

↓「記事に載せますのでお写真を・・・」と言ったら〝雉(キジ)”の真似をして羽ばたいてくださった右から奥田シェフ、司会進行の食ソムリエのMICHIKOさん、杉浦シェフ

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千葉芽弓/Miyumi Chiba

千葉芽弓/Miyumi Chiba

千葉芽弓(Miyumi Chiba)
ベジフードプロデューサー
Vegewel プロデューサー
Tokyo Smile Veggies 主宰

日本に根付いた伝統食を生かしたベジ・ヴィーガン食から健康や環境保護などの社会問題の解決や、ダイバーシティとしての真のおもてなしを目指し、メニューコンサルタント・製品開発・食育を行う。